1999/7
No.65
1. 吸音材について 2. 昭和7年発行の計測器カタログ 3. ISO/TC43/SC1プラハ会議報告 4. 2nd Joint Meeting of ASA and EAA会議報告 5. 寄 り 道 6. 第4回ピエゾサロンの紹介
7. 健康影響に基づいた騒音評価の方法 8. 低周波音レベル計NA-18の概要
        <会議報告> ISO/TC43/SC1、SC2、EAA/ASA報告
 2nd Joint Meeting of ASA and EAA 会議報告

騒音振動第3研究室 室長 加 来 治 郎

 東京からの直行便を降りた後、フランクフルトから会議の開催されるベルリンまではドイツ国鉄の誇る高速列車ICEを利用した。列車が駅を離れてまもなく、中高層のビル群はアパートや戸建住宅にとって代わり、それもいつのまにか畑や牧草地が拡がる風景へと変わった。ベルリン到着までに列車はいくつかの町を通り抜けたが、集落といえるだけの建物は駅のごく周辺に限られ、駅間は森や畑の連続であった。このことはフランスのTGVやパリ〜ロンドン間のユーロスターにおいても同様であり、いずれの路線も線路の近くに家が立つということは極めて稀であった。新幹線ですら線路に近接して住宅が建ち並ぶ日本とは騒音暴露の中味が本質的に異なり、日欧間で騒音問題を同じ土俵の上で論じることには土台無理があるように思える。外の景色に退屈してそんな考えを巡らしているうちに列車は終点のベルリン中央駅に到着した。

 3月15〜19日の5日間にわたってベルリン工科大学で開催された研究発表会は、ドイツ音響学会(DEGA)の後援のもとにアメリカ音響学会(ASA)とヨーロッパ音響連合(EAA)の共催となるものである。今回が1995年に続く2回目の催しではあるが、発表件数は2,000余りと音響に関連したこれまでの国際会議の中でも最大の規模とのことであった。日本からは招待講演の発表が若干あるだけでさすがに今回の参加者は数えるほどであった。

 ベルリンフィルハーモニックホールでのオープニングセレモニーでは、J.Meyer教授によって音源定位、マスキング、音色などについての解説が実際のオーケストラを用いて行われた。さすがドイツと感心する。さて、お祭り気分もここまでで15日の午後からいよいよ研究発表会がスタートした。発表件数が多いために20を超える会場に分かれ、ほぼ連日にわたって朝の8時から夕方の6時頃まで熱心な討論が行われた。目移りしそうなプログラムの中から環境騒音や鉄道騒音のセッションに的を絞って発表会場に赴いたが、200字以内のアブストラクトだけでは話の着地点がどこなのかよく理解できない発表が多々あった。自分の報告に対する質疑応答の際の狼狽振りを含め、またしても語学力の無さを痛感させられてしまう。印象に残ったトピックスとしては

● ヨーロッパ諸国でも、高速走行時の自動車騒音に関するタイヤ騒音(車室内外)や空力騒音(車室内)の重要性が認識され、その低減のための研究が進んでいること
● 磁気浮上式列車の騒音を日独間で比較すると同一速度では10dB以上の差があり、日本のガイドウェイ方式がドイツの跨座式よりも環境面では有利であること
● 航空機通過時の低周波音による軽量建具のがたつきがアメリカでも問題になり、調査の結果1/3オクターブバンドの25〜80Hzの音圧レベルの総和と住民苦情との相関が高いという結果が得られたこと
● 数年前より道路と鉄道の複合騒音の影響を明らかにするための学際的な共同研究がドイツのB.Griefahn教授らによって始められ、今回は睡眠影響に着目して行われた社会調査の結果が報告されたこと

などであろうか。いくつか興味のある研究発表については論文集の刊行後に別の機会で報告したい。

 会議終了後、ヨーロッパの高速鉄道の乗り心地や車内騒音についての調査を兼ねて前述のTGVやユーロスターを試乗した。東海道新幹線と比較すると概ね揺れは同程度で騒音はこちらの方がいくぶん静か(60〜65dB)と判断された。又、途中スイスのローザンヌ工科大学に立ち寄り、研究中のスイスメトロを見学した。トンネル内を減圧して空気抵抗を減らし輸送効率の向上を図ったもので、地震の少ないヨーロッパでは有効な方式かもしれない。これについても機会があれば詳細を報告したい。

写真 会場のベルリン工科大学前で

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