1999/4
No.64
1. 20世紀と環境 2. 表面保護をした多孔質材料の吸音特性 3. 磁気録音機の元祖 ワイヤーレコーダ

4. 健康影響に基づいた騒音評価の方法

5. 第3回ピエゾサロンの紹介

  6. サーボ加速度センサ LS-10シリーズ
  
 第3回ピエゾサロンの紹介

理 事 深 田 栄 一

 1998年12月21日に第3回のピエゾサロンを小林理学研究所で開催した。東北大学名誉教授、東北学院大学教授の中鉢憲賢先生による“超音波工学と高分子”と題する講演が行われた。中鉢先生は1997年横浜での超音波世界会議の会長および1998年仙台でのIEEE国際超音波シンポジウムの運営委員長を勤められた超音波工学の権威である。

 講演の最初の部分は、昨年の東北大学での最終講義の内容に沿って行われた。1910年代にハーバード大学のKennelly教授のもとに留学された抜山平一教授が開祖となって東北大学では電気音響工学の研究が伝統的に栄えてきた。中鉢先生は抜山研究室を継がれた二村忠元先生のもとで騒音制御の研究をはじめた。エンジンの消音器を設計するために、衝撃波によって発生する非線型振動の波形を解析し実験結果をよく説明することができた。つづいて和田正信教授の研究室ではCdS結晶中の超音波増幅に取り組んだ。理論解析の結果、超高周波帯での能率のよい超音波トランスデューサーが必要になり、拡散層超音波トランスデューサーを開発した。その後、現在も汎用されているZnO圧電薄膜超高周波トランスデューサーの研究、超音波顕微鏡の開発、マイクロ波超音波の発生など多くの業績をあげた。

講演される中鉢憲賢先生

 圧電共振子を用いる超音波トランスデューサーの理論的等価回路は1930年代にベル研究所のMasonが完成した。1941年に東北大学の抜山平一教授は電気通信工学で分布定数回路として知られている伝送線路モデルを電気音響変換理論に取り入れた。中鉢先生等はこの伝送線路モデル等価回路を改良し圧電トランスデューサーの過渡現象や周波数特性を解析した。更に多層構造圧電振動子内部の振動分布を解析することにも成功した。

 高分子に関しては、1977年に厚さ9−30μmの一軸延伸PVDF圧電膜を用いて、20−150MHzの超音波トランスデューサーの製作に成功した。またその可撓性を利用して凹面トランスデューサーを作り機械走査型超音波顕微鏡の試作に成功した。

 トランスデューサー圧電膜内の振動分布を知ることに加えて、膜内の電荷の分布を知ることも重要である。武蔵工大の高田達雄先生等の研究の紹介があった。圧電体にパルス圧力またはパルス電界を印加したとき外部回路に誘起される電流の時間変化を測定することによって内部電荷の分布を計測することができる。電力ケーブルのポリエチレン被覆層の中に空間電荷が存在すると絶縁破壊の原因になり、絶縁体内部の電荷分布を測定する技術は重要である。

 中鉢先生の最終講義のなかに次のような印象深い一節がある。電話の発明者A.G.Bellは1847年英国に生まれ、米国に渡り、Bostonで聴覚障害者の

教育に従事し、その教え子と結婚した。聴覚障害者への愛情が電話の発明の原動力になったという。研究者には献身的純情とも言うべき精神が必要であるが、これはBellの人間愛に通じるものであろう。  懇談会の時に、松下通信工業株式会社の安野功修氏からエレクトレットマイクロホンの最近の進歩について講演があった。FEPテフロン膜を用いたエレクトレットマイクロホンは携帯用電話の普及に伴い、松下だけで月産3000万個に達し、世界での1年間の総生産数は6億個に上るという。高分子の電気物性を利用した応用としては最大の規模であろう。

 現在のエレクトレットマイクロホンには耐熱性、耐湿性、集積回路との一体化などの課題が残っている。次の世紀にはSiO2エレクトレットをIC集積回路と結合し、マルチメディアのターミナルとして用いることが期待されている。

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