1999/4
No.64
1. 20世紀と環境 2. 表面保護をした多孔質材料の吸音特性 3. 磁気録音機の元祖 ワイヤーレコーダ

4. 健康影響に基づいた騒音評価の方法

5. 第3回ピエゾサロンの紹介

  6. サーボ加速度センサ LS-10シリーズ
        <文献紹介>
 

NPL Report CMAM16
Health effect based-noise assessment methods:
A review and feasibility study.(1998)

  健康影響に基づいた騒音評価方法 フィ−ジビリティスタディ
   
N.D.Porter and B.F.Berry (NPL) & I.H.Flindell(ISVR)

 数年前の国際会議から、交通騒音に関係した環境対策の基準として、騒音による影響をどのように評価するかについての発表が多くみられるようになった。昨年もニュージーランドにおけるインターノイズで、英国 NPL (国立物理研究所)の B.F.Berry が、英国環境庁からの委託研究として、「健康影響に基づいた騒音評価方法、フィ−ジビリティスタディ」と題して講演を行った。今回Dr. B.F.Berryから報告書が寄贈されてきたのでその概要を紹介する。

概 要
 英国環境庁(DETR)はNPLとISVRに対して、環境騒音が健康に及ぼす影響を評価するために用いる騒音基準について検討することを委託した。これに対する作業の目的は、将来における騒音基準を定義するに当たり、健康に対する騒音の潜在的な影響について、既存の知識がどの程度まで妥当なものとして利用できるかについて、DETRに助言することであった。

 文献によれば、騒音の健康に及ぼすいくつかの潜在的な影響については確認されているが、うるささ、わずらわしさについての影響調査と睡眠妨害の兆候に関する報告以外に、実際の健康に対する影響を示す科学的証拠は極めて不十分である。騒音のある域値以下であれば、健康に対する影響はなさそうであることが科学的な証拠として示されてはいるが、現時点でこれを決定的な結論と解釈するわけにはいかない。現存の基準や規制はある程度このような一次的(primary)結果を考慮しているが、少なくとも社会的、政治的また歴史的な要因も重要である。1995年に発行された WHO の指針は騒音評価を設定する際の予防的な方法であると考えられる。

 現時点における知識からの結論として、まだ混乱した状況にあってそれらが明確になるまでは、将来における環境の基準について、仮説的な聴覚以外に対する影響に基礎をおくことは賢明でないと考える。ここでうるささではなく、聴覚以外の健康影響について考慮することをことさら強調する理由は、これらの影響の程度が基準を設定する上で最も透明性のある(理解され易い)ものになると考えられるからである。但し、それらの影響の大きさについてはまだ多大の疑問が残っている。この聴覚以外への影響を将来の基準に盛り込むためにはさらなる研究が必要である。これについては研究計画やその実行については勿論、正確な定義のもとに実現可能な目的をもって用心深く実施されなければならない。

実行上(行政上)のまとめ
1. 英国環境庁は、将来における環境騒音に対する政策を設定するにあたって、健康に対する影響を解明するとともに、その実行の可能性を検討することの必要性を認識していた。NPLとISVRに対してDETRが委託したのは、このような枠組みによって環境騒音の健康に対する影響の評価に用いる基準について検討することであった。今回の作業の目的としては、DETRに対して将来の騒音政策についての基準とその限界を設定するための基礎となる現存する知識のうち妥当と思われる内容について助言することであった。

2. この作業における主要なものとしては、
 (1) 騒音レベルを規定するためにそれが住民に対する特殊な影響であっても現在ある情報について検討する。
 (2) 基準設定の方針と、目標の選定に用いることのできる情報と設定の可能性について助言する。

3. 作業は二段階において行なわれる。
 第1. 環境騒音に関連した現在ある基準や騒音の評価、限度及び1995年 WHO が発行した環境騒音に対する指針案の解釈、
 第2. 実現可能性の検討

4. 作業の結果は 5 つの項目にわけて報告する。
 (1) 騒音による健康影響への科学的な根拠の検討
 (2) 環境騒音を評価するために実際に使われる基準の研究
 (3) WHOの指針の解釈についての提案
 (4) 結論として影響を基礎として評価方法は決定できるか
 (5) DETR が将来基準を設定するにあたって考慮すべき論点

5. 第3 節においては、一般的な意味で騒音と健康という概念について考察する。健全な健康についていくつかの定義と明確にされた必要条件はあるが、健康への影響に関する評価方法として利用できる指標で、かつ対策の経費と便益との均衡をとった方法が、政策決定者にとって最も役に立つ枠組みを与えることができると結論した。

6. 文献によれば、騒音の健康に及ぼす潜在的な影響については確認されているが、うるささ、わずらわしさについての影響調査と睡眠妨害の兆候以外に、実際の健康に対する影響を示す科学的根拠は極めて不十分である。またこの課題で利用できる文献の中には矛盾を含んだものもある。一般的に、騒音は著しい影響があるとするものの中には、その計画や研究の実行において全く不十分と思われるものがある。決定的な結論を得るための研究を行なうには、重大な方法論的な困難な問題がある。このことは一方で、最も影響を受けやすい人々に対する顕著な騒音の影響は、証明されてはいないが、一応科学的にもっともらしいとしておく必要もあることを意味している。

7. 現在ある科学的な根拠に基づいた騒音曝露と反応の関係に関する情報を収集し、これまでに行われた第一段階の研究の結果を検討することによって一応結論を得ることはできる。しかし、騒音の健康に対する影響として、うるささ以外の影響があることを支持する証拠は極めて不十分で、現在のところうるささ以外の影響に対する意味のある騒音曝露と反応についての有益な関係を求めることはできない。また音響以外の要因も反応に関係があるので、これらも反応のデ−タの変動として加えることが必要である。科学的な根拠として、ある域値以下であれば健康に対する影響はないとしているが、現時点でこれが最終結論と解釈することはできない。

8. 騒音の影響と健康に対する悪影響との関係は実際にはさらに複雑で、例えば一つの影響がほかの影響をどのように変えるか、また他の影響因子やそれらを混合した変数、影響の数、騒音曝露の累積、敏感な個人、さらに種々の原因に基づく影響因子(risk factor) 等多くの要因に関係している。

9. 第 4 節は単に従来の科学的証拠に基づく評価ではなく、実際に応用可能な評価と限界について考察する。実用的な騒音限界は、望ましいとする限界と実現可能性との妥協である。望ましい基準はそれ以下では全く影響がないということであり、実現可能とは費用や便益を考慮した金銭的な社会費用をも考慮したものである。

10. 英国及びEU 諸国における環境騒音に関する基準や規制を調査してみると、現在の基準や規制は、通常このような一次的な研究をある程度採用しているが、社会的、政治的また歴史的な要素もすくなくとも重要視する必要がある。これらの要素の役割りを明確にし、現在実施されている基準や規制を設定した経過を明確にすることは極めて重要である。

11. 騒音の基準を設定するにあたって不明確な点があるので、欧州の中にはありうる健康に対する影響から保護するために、用心深く将来における基準や規制を設定しようとする動きがある。この例としては1995 年のWHO の提案で、これについては第 5 節において述べる。一方この予防的な対応はその影響について、科学的にもっともらしいと受け入れられるかもしれないが、これらのありうる影響については適当な見通しも必要である。将来の基準や規制の設定にあたって、用心深過ぎることは他の分野においては受け入れられない障害になることかもしれない。

12. 第 7 節はこれまでに得られた結論である。現在既存の知識の範囲においては、今後いまだ混乱している状況が明確になるまでは、将来の騒音基準や規制について、仮説的な聴覚以外の影響に基礎をおくことは賢明ではないと結論する。

13. 将来の基準や規制について、一般大衆がこれらの基準の重要性や限界をよく認識するようになるならば、騒音評価の問題はもっと分かりやすいものになるであろう。うるささの反応ではなく、聴覚以外の影響をより重要視することは、その結果得られる影響因子の変数としてより理解されやすいものになるからである。しかし現在これらの影響の大きさについて述べるためにはいまだ大きな疑問がある。従って聴覚以外の影響を将来の基準に含めるためには今後の研究が必要である。

 一方、将来の研究については、十分注意深く検討しその計画や実行ばかりではなく、厳密な定義のもとに実現可能な方針でなければはっきりした結果は得られないと思われる。

尚、この報告の詳細は次号に掲載する予定である。

(五十嵐 寿一)

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