1996/10
No.54
1. 騒音を測るということ 2. インターノイズ96(リバプール) 3. 斜入射吸音率試験室 4. グラスハーモニカと丼ハーモニカ(?)摺鉦(すりがね)の話

5. 航空機騒問題の歴史(3)

6. M.C.Comp.耳かけ形補聴器 HB-82MC
       <施設紹介>
 斜入射吸音率試験室

騒音振動第四研究室  村 和 則

1.はじめに
 当研究所では、主に道路交通騒音の吸音対策に用いられている吸音材の斜入射吸音率測定を行なっている。特に、高架裏面からの反射音の騒音低減対策に用いられる高性能な吸音材の開発にあたっての吸音性能の評価として斜入射吸音率の測定を行ってきた1)。今回新たに、斜入射吸音率の測定を対象とした半無響室が完成したので紹介する。

写真 1
写真 2

2.斜入射吸音率測定
 吸音材料の評価方法としては、JISで測定方法が規格化されている残響室法吸音率が一般的に用いられている。この残響室法吸音率は、劇場やホールなどの室内における音響設計あるいは工場などの閉空間での吸音対策に使用される吸音材の評価に用いられている。しかし、面積効果という試料周辺の剛壁からの反射音が回折して吸音材に入射するために吸音率を大きく評価する傾向にあり、測定値が1.0を越える場合がある。それらの理由から、測定結果をそのままの値で道路など屋外で用いる吸音材料の性能評価および対策効果量の予測値算出に用いることは難しい。そこで、道路などのように音があらゆる方向から一様に吸音面に入射するのではなく、限られた方向から入射する音場で用いる吸音材の評価には、現場での騒音性状と類似した測定法である斜入射吸音率が用いられるようになってきた。
 斜入射吸音率の測定では、青島が提案2)した時間引き伸ばしパルス(Aoshima's Time-stretched pulses)を音源に用いている。このパルスは、スイープ信号に近い波形をスピーカーから放射し、マイクロフォンで得られた波形を後処理することにより、継続時間の短いパルス的な信号の波形が得られる。この試験音を用いることにより、試料からの反射音と、スピーカからの直接音および周辺の障害物からの反射音を分離することが可能となり、試料からのみの音を抽出することができる。この試料からの反射音と試料設置前すなわち床面(剛壁)からの反射音を用いて斜入射吸音率が得られる。

3.試験室の概要
 この試験室は、鉄骨構造・防火サイディング貼りの床面積56m2(7m×8m)、高さ6mで、床面は完全反射面、壁面および天井は吸音処理が施されている半無響室である(写真1および写真2参照)。
 試験室の床面はコンクリート製、壁面は合板下地に繊維が接線方向のグラスウール(密度32kg/m3、330mm厚)を取り付け、天井は100mm厚のグラスウール3枚を法線方向に重ねて取り付け、その表面を寒冷紗で覆った構造である。図lにグラスウール200mm厚での繊維方向の違いによる垂直入射吸音率の比較を示す。この図よりグラスウールの繊維方向が接線のほうが吸音率が大きいことが明らかである。試験室のグラスウールの繊維方向はこの結果を基にして決定した。従来、無響室に用いられている内部から表面に向かって面密度が小さく楔型をしたグラスウールを用いると吸音率が限りなく1.0に近い吸音機構が得られるが建設費が膨大になる。今回のように壁面からの反射音はある程度無視できる測定手法を用いている斜入射吸音率測定を対象とした試験室においては、このような簡易な構造で充分と考える。
 試料の搬入・搬出に用いる開口部(3m×2.5m)には、軽量シャッターを採用した。そのため、測定時にはシャッターの室内側に厚さ20cm、高さ3.2mのグラスウールを充てんした衝立を設置してシャッターおよび入口ドアからの反射音を低減させている。また、室内には2台の空調施設が設置されているが、空調を必要としない場合にはグラスウール枠で覆うことが可能であり、見掛け上はすべての壁面はグラスウールで吸音処理されていることになる。

図 1  グラスウールの繊維方向の違いによる
垂直入射吸音率の比較

4.距離減衰
 試験室の音響性能調査のため、音圧レベルの距離減衰特性の測定を行った。調査は、床面の中央にスピーカを設置し、斜め上方向あるいは直上方向にマイクロフォンを移動させて距離減衰測定を行った。測定点周辺に障害物のない自由空間では、音源が点音源の場合には倍距離6dBの減衰が得られる。しかし、室内での距離減衰測定で壁面が反射性の場合には、マイクロフォンが壁面に近づくにしたがってスピーカからの直接音と壁面からの反射音が合成されて倍距離6dBの減衰値が得られなくなってしまう。
 今回新設した試験室における距離減衰測定結果の一例として、測定周波数1kHzでの結果を図2に示す。斜入射吸音率の測定周波数範囲である400Hz〜4kHzでは、倍距離6dBの減衰を吸音率測定でのマイクロフォンおよびスピーカの移動範囲で保持しており半無響室としての充分な性能をもった試験室であることが確認された。

図 2  床面中央からの距離減衰
スピーカ設置位置:床面中央

5.おわりに
 新設した試験室は、斜入射吸音率測定を行う周波数範囲で側壁および天井からの反射音は、測定に影響をおよばさないことが確認された。今後は、この斜入射吸音率試験室で試験を行い、設置位置に適した吸音材料の開発の手助けとなればと考える。

参考文献
1) 木村和則他: 「裏面吸音板の斜め入射吸音率について」
日本音響学全講演論文集 平成4年3月

2) 青島伸治:「パーソナルコンピュータを利用した信号圧縮法によるパイプ内音場の測定」
日本音響学会誌 40巻3号(1984)pp.146〜151

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