1995/7
No.49
1. 1dBの重み 2. 三軸震動ピックアップの校正 3. 木製の三脚 4. 列車自動監視システムの試作
       <研究トピックス>
 列車自動監視システムの試作

騒音振動第三研究室

1.はじめに
 鉄道騒音(振動)の長時間自動連続測定を可能とする列車の自動監視システムを試作した。本システムでは、とくに測定箇所での列車の重なりや停止といった特殊な運行状況にも対応できるように工夫した。ここでは、本システムの列車識別の方法についてその概要を紹介する。

2.列車の識別方法
1)センサー
 本システムでは、測定箇所を挟んだ2箇所に光電スイッチと振動ピックアップを設置し、合わせて4つのセンサーの出力を基に列車の運行状況を識別する。図1にセンサーの配置図を示す。

 図1 センサー配置図

 2系統の光電スイッチのON/OFFの時刻とその距離から、列車の通過時刻、上下の判定、車速、及び編成両数を算出する。
 上下線のレールの侵入側に取り付けた2個の振動ピックアップは、列車が実際に走行しているかどうかを確認するためのもので、光電スイッチの結果とともに列車の重なりや停止といった特殊な運行状況を判定する。

2)アルゴリズム
 本システムにおける列車識別の基本的なフローを図2に示す。以下、このフローに従って説明する。

図2 列車識別のフロー

(1)列車がいずれかの光軸を横切った時点で、システムが作動する。その時刻をt1、最後尾の車両が通り過ぎた時刻をt2とする。 (便宜上、最初の進入を上り列車として話しを進める。)

(2)時刻t1で上り側レールの振動ピックアップの値が事前に設定した閾値を超えている場合は列車と判定する。反応がない場合は、列車以外のものによる光電スイッチの作動と判断して初期状態へ戻る。

(3)測定点前を列車が通過し、下り側の光電スイッチがONになった時刻をt3とする。

(4)時刻t3で下り側レールの振動ピックアップの値が事前に設定した閾値を超えていないかどうかを確認する。反応がある場合は下り列車が光電スイッチを作動させたものとして上下の重なりと判定する。

(5)下り側の光電スイッチがOFF(列車が通り過ぎる)になるまで、下り側レールの振動を監視する。下り側レールに反応がない状態で下り側の光電スイッチがOFFになった場合(時刻t 4とする)は、列車の単独走行と判定する。OFFになる前にレール振動に反応があった場合は重なりと判定し、(4)のときと同じく、本数のみをカウントして初期状態に戻る。

(6)単独通過の列車については以下の諸量を算出する。
・通過時刻…(t1+t3)/2
・列車速度v…L/(t3-t1)×3.6   (km/h)
   L:2つの光電スイッチ間の距離(m)
・編成両数…v/3.6×((t2−t1)+(t4-t3))/2/d
   d:列車1両の長さ(m)

 なお、騒音計や振動レベル計の出力は、システムが作動した時点から終了時までパソコンに取り込み、それらのデータから各種の評価量を算出する。単発騒音曝露レベルLAEを求める場合は、少なくとも最大値から10dB小さい範囲のデータが必要になる。10dBの確保が難しい場合(測定点が線路から離れていたり、2つの光電スイッチの間隔が狭いとき等)は、プリトリガー及びポストトリガーの機能を付加することになる。

3.現場調査への適用結果
 本システムを用いて小田急線の経堂〜千歳船橋間(平地構造区間)で鉄道騒音の自動測定を行った。当該区間の一日の運行本数は800本弱で、朝夕のラッシュ時には電車の重なりや一時停止がたびたび発生する。2つの光電スイッチの間隔は100mに設定し、ほぼその中間の地点で列車騒音を測定した。測定時間は、夕方5時から深夜0時までの7時間で、その間、測定員による調査と自動監視を同時に行った。
 7時間の調査中に通過した291本の電車について、列車運行ダイヤや騒音レベルの測定結果等を参考にして全列車の識別を行い、測定員の記録及び自動監視システムのみ合わせから結果と比較した。その結果を表1に示す。

表1 測定員と自動監視システムの判定結果

 車両数の計算ミスは、列車長146mの特急電車(7両とカウント)と8両の普通電車の取り違えであり、いずれも速度が40km/h未満でしかも計測区間内で列車速度が変化している場合に発生している。
 表の結果から明らかなように、重なりの判定結果を除けば、今回試作したシステムは極めて正確に列車を識別していることが分かる。なお、重なりについては、測定員はレベルレコーダの記録紙の上で騒音レベルの二つの山が分離できないときを重なりと判定しているのに対し、本システムでは100mの計測区間内で一瞬でも列車が同時に存在すれば重なりと判定していることがこのような違いとなって表れている。

4.むすび
 光電センサーと振動ピックアップの組なる列車の自動監視システム試作し、実用に供し得ることを確認した。レール振動を列車走行の有無を確認するための情報源としている点が本システムの目玉であるとともに、実用に際しての大きなネックである。
 なお、本システムの基本ソフトは学習院大学の院生土肥哲也、学生浅見元保の両君の手になるものであるが、同様のシステムがすでに開発されていた場合は、平にお許しいただきたい。最後に、本システムを実際の現場へ適用するに当たって小田急電鉄の宍戸範久氏に多大のお世話になったことを感謝します。(室長 加来)