1995/7
No.49
1. 1dBの重み 2. 三軸震動ピックアップの校正 3. 木製の三脚 4. 列車自動監視システムの試作
       <研究紹介>
 
三軸振動ピックアップの校正

騒音振動第二研究室 岡 本 伸 久

1.はじめに
 振動計測においては、ある特定方向だけではなく、直交する二方向以上の同時計測が必要とされることがあります。このために三軸方向の振動が同一地点で計測できる振動ピックアップが市販されています。しかし、この種のピックアップの水平方向エレメントの特性試験には確立された方法はありません。そこで、独自に開発した校正手法を用いて、水平方向エレメントの設置共振振動数とピックアップの幾何形状の関係を定量的に把握するための実験を行いました。

2.校正用基準ピックアップの概要
 校正用基準ピックアップの概要を図1に示します。この基準ピックアップは三軸振動ピックアップをその使用設置方法に合わせて取り付けられる形状をしています。基準ピックアップには三個の圧電素子が組み込まれており、各素子の振動に対する応答出力から基準振動が得られます。三個の圧電素子の出力信号は、図2に示されるようにチャージアンプの帰還容量で重み付けされて加算されます。このようにして得られる信号から推定される基準振動には、振動ピックアップの校正精度の低下をもたらす基準ピックアップの弾性変形およびロッキング運動に基づく成分は含まれていません。なお、基準ピックアップの匡体には軽量化のためにチタンを用いており、動電型加振器の振動テーブルにネジ止めできる構造となっています。

図1 校正用基準ピックアップの概要

3.実験方法
 図2に校正実験の構成図を示します。校正する三軸振動ピックアップを瞬間接着剤で基準ピックアップに取り付けた後、約10分の乾燥時間を置いてから、ランダム信号で加振して基準ピックアップの出力信号(基準振動)と三軸振動ピックアップの水平方向エレメントの出力信号間の伝達関数の振幅特性を、2チャンネルのFFT分析器により求めます。水平方向エレメントの振幅感度は伝達関数の振幅特性より得られ、基準振動に対するエレメントの応答の遅れは位相特性より得られます。

図2 校正実験の構造図

 設置共振振動数とピックアップ質量および設置面積の関係を、質量(m)、設置面積(S)、設置面の一辺(h)、幅(t)を変化させた数種類の三軸振動ピックアップの匡体を模倣した立方体のチタンブロックで調べました。図3に市販の三軸振動ピックアップPV-93、PV-92B(リオン)とチタンブロックの形状を示します。加振方向のチタンブロックの振動は、その中央開口部に取り付けられている0.8gの一軸振動ピックアップPV-08(リオン)により計測されます。

図3 振動ピックアップおよびチタンブロックの形状

4.実験結果
4-1.共振振動数と質量・設置面積の関係
 図4には、チタンブロックと市販の三軸ピックアップPV-93、PV-92B、および、市販の三軸ピックアップのベースを完全にフラットにしたもの(F)について得られた共振振動数と質量および設置面積との関係を示します。横軸を、縦軸を設置共振振動数としてプロットしました。PV-92B以外の設置面形状が正方形の振動ピックアップは、共振振動数との間に直接的な関係を示しています。すなわち、正方形設置面形状の振動ピックアップの場合、その設置共振振動数は設置面積の1/2乗に比例すると考えられます。

図4 共振振動数と質量・設置面積の関係

4-2.長方形設置面形状の場合
 設置面の形状が長方形である三軸振動ピックアップPV-92Bは設置方向により設置共振振動数が異なり、長辺方向が短辺方向より振動数が高くなっています。そこで、この場合の設置共振系を等価的に、図5のように、分布質量が定数のばねによって4点で支持されている系と考えました。はn分割された微小面積部分の直交水平二方向のばね定数であり、設置面全体のばね定数

となります。(1)式からX軸、Y軸方向の共振振動数の比は次式で得られます。

 三軸振動ピックアップPV-92BとPV-92B(F)のデータに(2)式を適用して計算した共振振動数比を表1に示します。この結果より、(1)式による設置共振振動数の考え方が妥当であることがわかります。また、(1)式および(2)式は正方形設置面積形状にも適用が可能です。

図5 設置共振の考え方
 
表1 三軸振動ピックアップの共振振動と振動数比

5.まとめ
 三軸振動ピックアップの水平方向エレメントの設置共振振動数と設置面積および質量の関係を、実験的に求めました。三軸振動ピックアップの水平方向エレメントについては、その使用範囲が明確になっていない面がありますが、本研究によって得られた結果を参考にすると、瞬間接着剤による設置という限定はありますが、計測に使用するピックアップの幾何形状を考慮して、有効な振動数範囲を設定することが可能となります。

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