1992/4
No.36
1. 欧米における騒音事情 2. 航空機騒音の到来方向の変化の検出 3. 小型振動個人ばく露計の開発研究 4. inter-noise'91 in SYDNEY 5. リアルタイムアナライザ SA-27を用いた自動測定のできる超小型残響時間計
       <技術報告>
 リアルタイムアナライザSA‐27を用いた自動測定のできる超小型残響時間計

リオン株式会社 音響技術部 小 白 井 敏 明

1.はじめに
 騒音計をはじめとする音響計測器の分野に於てもコンピュータの搭載とディジタル信号処理技術の応用が着実に浸透してきており、ディジタル技術の適用によって、計測の信頼性が向上するばかりでなく、計測方法の拡張及び必要とする信号処理を任意に実現することが可能となってきました。
 ここではその成果の一つとして、リアルタイムアナライザSA-27を用いた、自動測定のできる超小型残響時間計を紹介します。

2.1/3オクターブリアルタイムアナライザSA-27
 SA-27は屋外での測定を主目的として超小型化した、バッテリー動作、プリンター内蔵、メモリカード用スロット付きの、音・振動のための実時間型周波数分析器です。瞬時分析が可能なために変動音の分析に最適です。
 環境騒音をはじめとしてパワーレベル、一般音響・振動、等の評価は、データの共通性の面からも、一般的には1/3、1/1オクターブ分析が要求されます。
 アナライザSA‐27は、30バンドの1/1オクターブバンドパスフィルタで入力信号を同時に周波数成分ごとに出力し、各曲力の実効値を計算後レベル化して表示します。これらのフィルタはハイブリッドIC化され、小型化と高信頼性に貢献しています。
 実効値計算はDSP(ディジタルシグナルプロセッサ)による高速演算により達成し、指数平均も行っています。この結果は最短1msecごとに1000パターンまで連続ストアーでき、RAMカードに収納可能です。
 2次的処理機能ではパワー平均レベル(等価騒音レベルと同等)、時間率平均レベル(中央値、90及び80パーセントレンジ)の算出、任意周波数補正等ができます。

3.超小型残響時間計
 ROMカードのプログラム(図1)をSA-27に装着すると、超小型残響時間計に早変わりします。  
 残響時間は場所、目的によって様々な最適時間が要求され、現場にてその調査を行なう場合は、本器のような小型で簡便な残響時間計が特に望まれています。

図1 プログラムカード

 SA‐27はディジタル方式の実効値演算、指数平均を採用しているため、1ミリ秒以下の時定数でも設定可能で、30ミリ秒程度までの短い残響時間測定が出来ます。このため、一般建築物や、小空間の短い残響時間の測定にも十分対応ができます。
 超小型残響時間計は、次の機器で簡潔に構成することができます。
 (1) 1/3オクターブリアルタイムアナラザSA‐27
 (2) パンドノイズユニットSC‐54(SA‐27に内蔵)
 (3) 残響室系測定ソフトSA27‐20A(SA‐27に装着)
 (4) マイクロホンUC‐53/プリアンプNH‐17
 (5) パワーアンプ/スピーカー(一例として市販のオーディオ用アンプ付きスピーカーが便利です) 図2.はその基本構成です。

図2 基本構成

 残響時間測定の諸条件を次に示します。
[最大測定点]10点
[ノイズ信号]ピンク/ホワイトまたはそのバンドノイズ(63Hz〜8KHzの8オクターブの任意選択)
[自動測定モード]1つの測定点で測定を始めてから残響時間を算出し、測定点での残響時間として登録するまでを自動的に行うことができます。つぎの項目設定が可能です。
・測定周波数範囲
  63Hz〜8kHzの8オクターブの任意選択。
・残響時間測定レンジ
  1オクターブ毎に次の8レンジから選択。
  30mS〜250mS、500mS〜5.0S
  50mS〜500mS、1.25S〜12.5S
  120mS〜1.25S、2.5S〜25.0S
  250mS〜2.5S、50.0S〜50.0S
 図3.に測定可能な最小残響時間を示します。

図3 測定可能な最小残響時間
(1/3オクターブフィルターのレスポンスタイムを含む)

 ・平均回数
  最大99回/測定点(1オクターブ毎設定)
 ・ノイズ信号継続時間
  5秒、15秒、30秒、任意指定、+(64サンプル周期)サンプル周期は、残響時間測定レンジの最大時間の1/250です。
[計算方法]リニアー法:1回のレベル減衰波形上の2点間から最小自乗法により60デシベル減衰する時間を求め、例えば12回の算術平均をして求めます。
 パワー平均法:例えば12回のレベル減衰波形をパワー平均し、得られた1本のレベル減衰波形上の2点間から最小自乗法により60デシベル減衰する時間を求めます。
 レベル減衰波形上の2点間は、定常レベルより5デシベル下がった点から15、20、25、30デシベル下がった点までのレベル範囲の中から選択。
 図4.にパワー平均したレベル波形とレベル範囲別残響時間(RT15、20、25、30、USER、ここではRT30を選択)を示します。
(注)通常はリニアー法を使用します。リニアー法、パワー平均法の呼称は説明上表記したものです。

図4 パワー平均したレベル波形

[その他]予備測定、手動測定、結果の修正
 自動測定の結果は次のような数種類の形式で出力され結果の検証が正しく出来るよう工夫されています。
 (1) レベル範囲別残響時間対周波数特性リスト
 (2) (1)のレベル範囲指定時の残響時間対周波数特性グラフ
 (3) 各測定点の残響時間対周波数特性リスト
 (4) (3)のグラフ
 (5) 各測定点平均の残響時間対周波数特性リスト  
  図5.にその測定例のリストを示します。

図5 n点平均の残響時間測定結果のリスト

 (6) (5)のグラフ
  図6.にその測定例のグラフを示します。

図6 n点平均の残響時間測定結果のグラフ

 (7) 測定点別残響時間対周波数特性リスト
 (8) (7)のグラフ
 手動測定では、各周波数での測定時にレベル減衰波形を見ることができ、暗騒音等の測定環境を考慮して最適レベル範囲を指定できます。自動測定では、多くの場合、まえもって手動測定で確認しておくことが必要となります。
 以上SA‐27を応用した、残響時間計の構成と主な仕様、測定例について簡単に紹介致しました。  
 この残響時間計は、本格的な取組みによって初めて生まれた、ユニークな製品と考えております。
 ROMによるプログラムカードSA27‐20Aは、この他に
 (1) 音響透過損失測定(JIS A 1416)
 (2) 現場に於ける室間遮音性能の測定(ISO‐140/4)
 (3) 残響室法吸音率測定(JIS A 1409)
のプログラムも入っており、残響室系の応用ソフトとして広く使用出来るよう設計されています。これらについては、また機会があればご紹介させて頂きます。

-先頭へ戻る-