1989/4
No.24
 1. ニュース発刊7年目を迎えて  2. 平成元年を迎えて 3. 航空機の音 (昭和初期―昭和43年)  4. 耳栓 (Earplug) -耳塞ぎ餅の話し-  5, チタン酸鉛系超音波材料の開発と超音波トランスデューサー
 6. 建築物の遮音性能測定機能をもった騒音計 NA-29
       <技術報告>
 建築物の遮音性能測定機能をもった騒音計 NA-29

リオン株式会社音測技術部 吉 川 教 治

1. はじめに
 建築物の遮音性能測定機能、リアルタイム1/1オクターブ分析機能を持った騒音計がNA-29でありますが、名称は『騒音計(分析器付)』になっています。本器の機能、性能を考えると他の適当な名称も考えられますが、騒音計として計量法を取得することを前提に、この名称にしました。
 騒音測定の現場を考えるとき、取引証明に使用される騒音レベル(LA)の他に、JIS Z 8731『騒音レベル測定方法』に定める等価騒音レベル(LAeq,T)の測定を行うことが普及し、騒音計も、騒音レベル(LA)、等価騒音レベル(LAeq,T)を測定できるタイプが一般的になってきました。本器は、騒音レベル(LA),等価騒音レベル(LAeq,T)の他に、現場において建築物の遮音性能を簡便に測定できるよう、リアルタイム1/1オクターブ分析機能と、遮音性能測定のための処理機能を持っており、ここでその概要を紹介します。

2. 小型、軽量化構成と性能
 本器は、大きく分けて、騒音計の増幅器、9バンドの1/1オクターブフィルタ、10個の実効値検波、演算処理のデジタル部の4つの部分から構成され、小型、軽量化するために、チップ部品を使用した高密度実装と、1/1オクターブフィルタ、実効値検波回路の専用IC化で、従来の各種測定器をシステム化した装置以上の性能を持っています。
 フィルタの適用規格は、JIS C 1513 II型他IEC 225及びANSI規格を満足し、更に、現在IECで審議中の規格を満たすべく設計されています。
 実効値検波回路は、真の実効値で、表示範囲60dB、ダイナミックレンジ約70dBに渡って、その直線性誤差は0.5dB程度となっています。
 図1 a、bに本券の外観ブロック図を、図2、図3はそれぞれフィルタ特性、実効値検波回路の直線性誤差です。表1は最低測定レンジにおける自己雑音レベルです。

図1a NA-29の外観
 
図1b ブロックダイアグラム
 
図2 フィルタ特性
 
図3 検波回路の直線性(dB)
 
表1 自己雑音(標準値)

3. 建築物の遮音性能測定
 集合住宅、ホテル、事務所等の遮音性能測定は、JIS規格により決められた方法に従って行われています。
 ここで、遮音性能測定のJIS規格とはJIS A 1417「現場における室間音圧レベル差の測定方法」及びJIS A 1418「現場における床衝撃音レベルの測定方法」をいい、測定器、測定方法及び、測定値の求め方について規定されています。
 本器は、音源置以外の測定器が全て一体化され、測定結果の演算処理まで行います。
(1)室間音圧レベル差(JIS A 1417)
 この規格は、各種建物内の2室間及び廊下と室間などの遮音性能を表す室間平均音圧レベル差の測定について規定しており、1式で計算されます。
  …………………………………… 1式
  :室間平均音圧レベル差
  :音源室内の平均音圧レベル
  :受音室内の平均音圧レベル
 ここで音源側、受音側いずれの場合も、室内の平均音圧レベルをLとすると、測定値の最大と最小との差により、2式、3式を使用します。
 1) 最大と最小との差が5dB以内
  …………………………………… 2式
 
:測定点iにおける音圧レベル
  :測定点の数
 2) 最大と最小との差が5dB超10dB以下
  ………………… 3式
 3) 最大と最小との差が10dBを超える場合は、室内の平均音圧レベルを算出しない。 本巻は、(測定点iにおける、各1/1オクターブバンドの音圧レベル)にLeq値を使用し、Leq値を求める為の計測時間は任意に設定できます。
 平均音圧レベル、の計算は、各測定点iにおける音圧レベルの最大と最小との差で、2式, 3式の計算方法がJIS規格とおりに、自動的に行われます。
 また、測定点iにおいて、各1/1オクターブバンドを順次1バンドずつ測定する方法と、全バンド同時に測定する方法とが選択できるようになっており、S/N比や、バンド間のクロストークが問題にならない時、全バンド同時に測定する方法を用いると、測定時間の大幅な短縮がはかれます。
(2) 床衝撃音レベル(JIS A 1418)
 この規格は、各種建物内の上下2室間及び上階廊下と室の間などの床の、床衝撃音に対する遮断性能を表す床衝撃音レベルの測定方法について規定しており、4式で計算されます。
  ……………………………………… 4式
  :測定周波数毎の床衝撃音レベル
  :音源位置jに対する各測定点の床衝撃音レベルの平均値(dB)
 m :が算出できた音源位置の数
 ここで、床衝撃音レベルの平均値Ljは、測定値の最大と最小の差により、次の5式、6式を使用します。

 1) 最大と最小との差が5dB以内
……………………………………… 5式 
 2) 最大と最小との差が5dB超10dB以下
……………………… 6式
 3) 最大と最小との差が10dBを超える場合は、その周波数に対するを算出しない。
 床衝撃音レベルの測定には、重量床衝撃音レベルの測定と、軽量床衝撃音レベルの測定があり、本器では(測定点iにおける、各1/1オクターブバンドの音圧レベル)に、重量床衝撃音レベルの測定ではLmaxを、軽量床衝撃音レベルの測定ではLeq値を使用し、Lmax, Leq値を求める為の計測時間は任意に設定できます。
 平均音圧レベル、の計算は、各測定点iにおける音圧レベルの最大と最小との差で、5式, 6式の計算方法がJIS規格どおりに、全バンド同時にかつ自動的に行なわれます。
 図4、5、6は、室間音圧レベル差、重量床衝撃音レベルの測定、軽量床衝撃音レベルの測定結果の表示例です。
図4 室間音圧レベル差測定例
 
図5 重量床衝撃音レベル測定例
 
図6 軽量床衝撃音レベル測定例

(3) 残響時間の測定
 残響時間の測定を正確に行なうには種々の制約があるが本器では、簡易に残響時間の測定ができるよう、実効値検波回路に10msecの時定数を用意し、音圧レベルの 高速サンプル値をデータ収録して、画面表示の減衰特性から残響時間を求めることができます。収録データ数は1500で、音圧レベルのサンプリング間隔は、2msec 、5msec、10msec等から選択できます。
 集録時間は、1500×サンプリング間隔で、サンプリング間隔が2msecのとき、3秒です。図7は測定例です。
図7 残響時間測定例

 残響時間(T)の計算は、測定データの減衰しはじめる点のマーカアドレス番号をN1とし、N1から30dB減衰したマーカアドレス番号をN2とすると、次式で求められます。
 T=(N2-N1)× t
 t:音圧レベルのサンプリング間隔(2msec、5msec、10msec等)

4. 環境騒音測定とデータ収録
(1) 一般環境騒音測定とLx演算
 道路交通騒音や一般工場騒音は、不規則かつ大幅に変動するので、このような音の評価について、騒音規制法及び、騒音にかかわる環境基準では、騒音レベルを統計処理した時間率騒音レベルの中央値等5値が用いられます。
 本器では、騒音レベルのデータ集録機能を用いて、最大1500の集録されたデータから100個単位の任意数で中央値など5値を演算すると同時に、各1/1オクターブバンドの中央値等5値も演算します。
 騒音レベルのサンプリング間隔は、2msec〜10secが選択でき、サンプリング間隔を5secとしたときの集録時間は、約2時間で、この間任意に中央値等5値を演算できます。
(2)等価騒音レベル(LAeq,T)のデータ収録

 等価騒音レベルが各種騒音を統一的に評価する量として有効であることは、国際的に広く認められており、騒音の研究等では等価騒音レベルによるデータ収集が騒音測定の重要な部分をしめています。
 等価騒音レベルのデータ収集では、測定時問が調査目的により、10秒〜8時間程度と幅広く設定されます。本器では、等価騒音レベルの測定時間を1秒から24時間まで任意に設定でき、あらゆる測定目的に適用できるよう造られています。
 等価騒音レベルの集録データ数は1500で、測定時間を10秒としたときでも、連続4時間以上のデータをすきまなく集録できます。また等価騒音レベルの1/1オクターブバンド分析した値も同時に測定集録することもできます。
 測定時間を10分としたときは、連続10日間のデータ集録器となり、環境騒音のモニター装置としても機能します。集録したデータは、2次処理機能で任意の個数をパワー平均でき、データ整理も本器内で行えます。図8は、屋内の騒音を10秒の測定時間でデータ集録した例です。

図8 等価騒音レベル測定例

5. おわりに
 建築物の遮音性能測定機能をもった騒音計『NA-29』について概要と測定例を紹介しましたが、この他にも、トリガ機能やRS-232Cインターフェースを用いてコンピュータ制御できる等の多機能であります。本器の開発にあたって、吉村純一氏始め小林理学研究所の多くの方の助言を頂きました。ここに深謝いたします。

-先頭へ戻る-