1989/4
No.24
 1. ニュース発刊7年目を迎えて  2. 平成元年を迎えて 3. 航空機の音 (昭和初期―昭和43年)  4. 耳栓 (Earplug) -耳塞ぎ餅の話し-  5, チタン酸鉛系超音波材料の開発と超音波トランスデューサー
 6. 建築物の遮音性能測定機能をもった騒音計 NA-29
       <研究紹介>
 チタン酸鉛糸超音波材料の開発と超音波トランスデューサー

圧電材料研究室 落 合  勉
リオン(株)研究開発部 福 山 邦 彦

1. はじめに
 超音波を利用した医用診断装置は、X線等による診断装置とは違って、その非侵襲的性質故、現在広く用いられている。ニューズの多様化に伴い超音波トランスデューサー材料は、分解能を上げるべくより高周波化、また高感度化への要求が高まっている。トランスデューサー材料として現在、ジルコンチタン酸鉛(PZT)糸、チタン酸鉛糸のセラミックス、水晶、LiNbO3等の単結晶、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の高分子、およびZnO等の薄膜が主に用いられている。当研究室でも前述の要求を満たすべく、各種圧電材料の研究開発を行ってきた。
 従来トランスデューサーのセラミックス材料としては、PZT糸セラミックスが用いられてきた。それはその圧電性の優秀さも当然のことながら、焼結性の容易さにもあった。しかしニューズの高度化に伴い、いくつかの問題点が生じてきた。それらはチタン酸鉛糸の材料を用いることによりほぼ解決することが可能となる。
 以下開発したチタン酸鉛糸セラミックス材料の性質、およびそれらを利用した超音波トランスデューサーについて述べる。

2. チタン酸鉛糸セラミックス材料
 一般に、PbTiO3はそのままでは焼結性が非常に悪く、また焼結できたとしても密度が充分上がらず、実用には供し得ない。そこでAサイト、Bサイトを他の元素で一部置換するとか、適当な添加剤を加えるとか、または他のペロブスカイトタイプとの2成分糸にして焼結性の改良をはかり、材料開発を行う。しかし普通の焼成方法では、材料開発を行ったからとて、必ずしも焼結が完全というわけではなく、hot-Press焼成法等を用いて、はじめて理論密度に近い高密度の材料が得られる。
 ここで開発した材料は2成分糸であり、hot-pressによった。hot-pressは、酸素雰囲気中で120kg/の圧力を加え、1150〜1200℃で6時間焼成を行った。表1に代表的な材料PTSZ-3、 PTSZ-5(いずれも略名)の諸定数を示す。PZT糸では、縦振動と横振動に対する電気機械結合係数k33(kt)、k31が共に大きいので、必要とする超音波ビームを得るための振動子形状に、幅/厚<1なる制限があり、エレメントの加工が非常に困難となる。ところがチタン酸鉛系では、k33(kt)>k31であり超音波ビーム形成に必要な縦振動のみ取り出すことが容易になり、幅/厚の条件が緩和される。その結果エレメント加工の際の問題が解決される。キコーリー温度Tcは、それぞれ374℃, 298℃と純粋なPbTiO3のTc490℃と比べて低いが、超音波トランスデューサーに利用する限りに於いては全く問題ではない。誘電率は、PZT系の値1500〜2000に対し、263、326と低いので高周波で使用する際、インピーダンスの低下が少なく、パルサー等の外部機器とのインピーダンス整合がとり易い。 圧電定数は、d定数、g定数も共に大きい方が望ましいが、d定数とg定数間にはの関係あり、両定数とも大きくすることは不可能である。d定数の大きな材料は、送信用のトランスデューサーに適しており、他方g定数の大きい材料は受診用に適する。ここでのd定数d3382pc/N, 98pc/Nなる値は、PZT系には劣るもののチタン酸鉛系ではかなり大きな値である。またg定数g33の35mV・m/N,34mV・m/NはPZT系より大きな値である。機械的品質係数QMは93、86と低く、これはソフト材PZT系のQM値とほぼ同程度か、若干高い位の値である。低QMのため、帯域巾が広く、ダンピング特性が良好となり、特に受信器に用いた場合、リンギングの問題が解消される。つぎにこれらの材料を水中で使用する場合、即ちハイドロホンとして利用する場合について述べる。静水圧下での圧電定数dh、dgは、全方向から静水圧が働くため次のように表される。

 またハイドロホン感度のfiguve of meritはdhとghの積dh・ghで表わす。d33とd31は符号が異なるため、PZT系ではd31が大きいのでdhは比較的小さい値になってしまう。しかしここでの材料はd31およびが小さいのでdh、gh共大きく、良好なハイドロホン材料であるということもできる。
 以上、簡単に開発したチタン酸鉛系PTSZセラミックスの特長を、PZT系セラミックスと比較しながら述べた。

表1 チタン酸鉛系PTSZセラミックスの諸定数

3. 超音波トランスデューサー
 ここではセラミックス材料を利用した超音波トランスデューサーについて説明する。図1は医用トランスデューサーの基本構成を表わしたものである。圧電材料、バッキング材、音響整合層、音響レンズより成る。整合層は伝達効率を上げるために、圧電材料と被検体(媒質)の音響インピーダンスの幾何平均にし、厚みを1/4波長とする。バンキング材は、圧電振動子の振動を強制的にダンピングして、広帯域化と機械的強度の向上をはかるものである。また音響レンズは音速の違いを利用して、超音波ビームの集束、発散、および偏向を行うものである。

図1 医用超音波トランスデューサーの基本構成

 この様な構成にすることにより、パルス応答性が改良され、分解能が向上する。
 探傷用トランスデューサーでは、圧電材料と被検物との音響インピーダンスが比較的近いことが多いので特に音響整合層を設けない。また、被検物の表面に近い所にある傷を探すためには圧電材料と被検物との間に遅延材を入れたり、パルスを斜めに打ち込むために楔を入れたりもする。
 写真1はこれら超音波トランスデューサーの例である。左は人体用のもので、副鼻腔診断装置の開発に際し試作したものである。中央は被検物の表面に近い傷を探すためのもので、遅延材を設けると共に送受独立した2個のトランスデューサーを1つの筐体に組み込んである。右は一般的な探傷用のものである。

写真1 超音波トランスデューサー

4. まとめ
 ここで開発したチタン酸鉛系材料はhot-press焼成法を用いることにより、優れた圧電特性が実現された。その結果、周密度のセラミックスが得られ、分極処理やスライス、研磨等の加工処理が容易になった。しかしhot-pressを用いた場合、大面積の材料が得にくい、大量生産ができないとの欠点があることも確かである。今後高度のニューズに応えるためには、セラミックスに限らず、各種圧電材料の開発はもとより、その作製技術の発展が必要であろう。例えばその一つとして、高分子等の真空蒸着による方法が考えられる。現在マイクロホンの振動膜や絶縁膜に利用されているパリレンは、この方法で作製されている。残念ながら圧電性は見い出されていない。

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