1987/10
No.18
1. 20周年を迎えた「母と子の教室」 2. 振動ピックアップの比較校正 3. 1/Nオクターブ実時間分析器(SA-26) 4. 人間と関係のある振動の測定器規格
       <研究紹介>
 
振動ピックアップの比較校正

騒音振動第2研究室 横 田 明 則

1. はじめに
 物体の揺れを計測する目的に振動ピックアップは欠かせないものです。振動ピックアップには計測目的に応じた数種のタイプがありますが、ここでは主に機械振動の測定、あるいは振動体に影響を与えず正しく計測する必要がある時に用いられる比較的に小型の振動ピックアップ(1g〜100g程度)の校正について述べます。

 この種の振動ピックアップには圧電型のものが多く、リオン(株), Endevco, B&K, Kisler 社などによってユーザに供給されています。ユーザがピックアップを購入する際には当然のこととしてその特性(感度、振動数特性等)も同時に手にします。圧電型のピックアップの感度の経時変化は、理論的には10年で1%程度の変化しか生じないと言われています。丁寧に取り扱うと半永久的に使用できる非常に重宝なセンサーの一つと言えます。ところが、振動を取り上げなければならないような現場では、腫物に触るような気持ちで恐る恐る取り扱う訳にはいきません。また、十分に注意してピックアップを振動面に取り付けても、計測中に外れて落ちることもあれば、取り付け面の凹凸によってピックアップの底面が傷つくこともあります。一般に、圧電型のピックアップは衝撃の影響を小さくするように設計されていますが、過度の衝撃を与えることで圧電素子自身にひびが入ったり、割れたりすることがあります。これらのことでピックアップの特性が変化します。ピックアッ プの底面(取り付け面)に傷がはいった場合には、べース歪みと呼ばれている現象によっても特性が変わることがあります。

 このように、ピックアップが持つ本来の特性は安定していても、使用することにより感度あるいは周波数特性が変化することがあり、管理の面からも定期的に校正しておくことが必要です。特に、圧電型のピックアップは圧電素子が損傷しても出力が得られることがありますので、使用中に故障を発見することは容易ではないと思われます。

 一般的に使用される振動ピックアップの校正は、基準となる標準ピックアップとの比較によって行われます。この校正方法は一般にback to back方式と呼ばれています。この標準ピックアップはレーザ校正装置等によって精度良く校正されていることが不可欠です。標準ピックアップも振動ピックアップメーカによって供給されています。Endevco社の2270,B&K社の8305,Kisler杜の809K,RION(株)のPV03等が標準ピックアップとして市販され ています。当研究所ではリオン(株)の標準ピックアップPV03を用いたback to back方式による校正を行なって振動ピックアップの管理を行っていますので、校正方法、校正例を紹介します。

2. 標準ピックアップ
 標準ピックアップは一般に使用される振動ピックアップを校正するための基準になるもので、動作が安定しており、かつメーカによって測定されたその特性は公の機関によって保証されていることが必要です。リオン(株)の標準ピックアップPV03は当研究所の圧電研究室で開発したBi層状酸化物が用いてあり安定性には優れています。感度および周波数特性は当研究所とリオン(株)で共同開発したレーザ校正システムによって0.5%以内の誤差で校正されています。

 振動ピックアップメーカの多くはアメリカのNBS(National Bureau of Standard)に標準ピックアップを送り、そこでの校正値とメーカ校正値がトレーサブルであるということで標準ピックアップの特性を保証しています。

 PV03につきましてもNBSに依頼して校正されております。図-1にNBSで校正されたPV03の感度と周波数特性を示します。ここに示しております特性は当研究所のレーザ校正システムを用いた結果とほとんど同じ値を示しております。

 なお、PV03はNBS主催による振動ピックアップの絶対校正に関するRound Robin Testに提供されています標準ピックアップの一つで, 小林理研/リオンの研究グループも上記のレーザ校正装置をこのTestに参加させております。

図-1 標準ピックアップ(Rion/PV03)の周波数応答(NBSでの測定結果)

3. 校正法(back to back method)
 一般に用いられております振動ピックアップは基準となる標準ピックアップとの比較に よって校正されます。加振器に標準ピックアップをねじで取り付けて、その上に校正される振動ピックアップ(供試ピックアップ)を取り付けて、両者の出力の比から供試ピックアップの感度が求められます。

   St=(Vt/Vs)・Ss       (1)   
 St:供試ピックアップの電荷感度(pc/g)
 Ss:標準ピックアップの電荷感度(pc/g)
 Vt:供試ピックアップの出力(volt)
 Vs:標準ピックアップの出力(volt)

 次に図-2に示します校正装置のブロック図に従って校正の手順を説明します。

図-2 振動ピックアップの校正系列

1) 加振器の振動面に標準ピックアップ(PV03)を所定のトルクで取り付ける。

2) 標準ピックアップの上面に供試ピックアップを、ねじ止めの場合には所定のトルクで取り付ける。数グラムの軽いピックアップの場合には標準ピックアップの上にダミーを取り付けてその上に供試ピックアップを取り付ける。ダミーとピックアップの全体の重量は20グラム程度にする。
標準ピックアップの取り付け面と供試ピックアップあるいはダミーの取り付け面に薄くグリースを塗っておく。この処置は高い周波数での特性を良くする効果がある。

3) パーソナルコンピュータからシンセサイザーに命令を送り加振周波数と出力電圧を設定する。出力電圧の設定時には標準ピックアップの出力を監視しながら、加振器の振れがほぼ1.5g(g=9.80665m/s2)程度になるようにする。シンセサイザーの設定は、校正を始める前に上の操作を各周波数について一度行なって記憶しておくと、実際には記憶した内容を呼び出すだけで足りる。

4) チャージアンプ(電荷増幅器)を通して得られる標準ピックアップの出力電圧を電圧計で測定してパーソナルコンピュータに読み込む。次に電圧計への入力をスキャナーによって供試ピックアップに切り換えて、上と同様にしてパーソナルコンピュータに電圧を読み込む。

5) 3)と4)の操作を校正する周波数の数だけ繰り返す。

6) パーソナルコンピュータに読み込まれた標準ピックアップの出力電圧および供試ピックアップの出力電圧より(1)式に従って校正値を算出する。

6)で感度校正値を求めるときに注意しなければならない点があります。図-2のブロック図から分かりますように、ピックアップの出力電圧はチャージアンプを通して測定されますから、2台のチャージアンプの特性が異なりますと(1)式にその補正を施す必要があります。

 この補正値を求める方法を図-3をもとに説明します。

図-3 チャージアンプの特性測定系列

周波数f0でのシンセサイザーの出力電圧を標準容量のコンデンサーを通してチャージアンプに入力し、その出力電圧を読み取ります。シンセサイザーの状態を一定に保った時の標準ピックアップのチャージアンプの出力電圧をV1、供試ピックアップのチャージアンプの出力電圧をV2としますと補正値C(f0)はC(f0)=V2/V1と表せまして、(1)式は次のように変わります。

St=(Vt/Vs)・Ss・C(f0)     (2)

 (1)式或いは(2)式から分かりますように、振動ピックアップの校正は電圧の比で求められますので電圧計の精度が問題になります。Vt, Vsがほとんど同じような値であれば電圧計の誤差は相殺されることが考えられますが、そうでない場合には電圧計の誤差の補正もする必要があります。当研究所で用いております電圧計はFluke社のModel 8506Aで定期的にメーカに校正に出しています。電圧計の誤差は測定範囲内で0.01%以下が保証されていますので電圧計の誤差による補正は行なっていませんが、一般的には必要です。

 さらに、各周波数に対する校正値は次式によって80Hzを基準とした周波数応答として表示します。

Sf=(S−S80)/S80・100    (3)
Sf:周波数fHzの周波数応答  (%)
S:周波数fHzの電荷感度   (pc/g)   
S80:周波数80Hzの電荷感度  (pc/g)

80Hzを基準として周波数応答を求めるのは標準ピックアップが80Hzで絶体校正されているためです。他の周波数での絶対校正も勿論可能ですけれども、一般的には80Hz, 100Hz, 160Hzのいずれかの周波数での感度で代表されています。NBSにおきましても周波数応答を求める測定にレーザ校正装置を用いてはいません。

 上に説明しましたような方法(back to back method)によって一般に使用する振動ピックアップの感度、周波数応答が求められます。以下に校正例を挙げながら校正の重要性について説明します。

4. 校正例
 校正された振動ピックアップには、表1に示します成績表が与えられます。成績表には振動ピックアップの電荷感度、周波数応答の他に参考データとして絶縁抵抗、静電容量および取り付けによる共振周波数の測定結果を載せております。この成績表を振動ピックア ップ購入時の特性表と照らし合わせることによって、そのピックアップの現在の状態を知ることができます。前にも述べましたように、特に圧電型の振動ピックアップは圧電素子が損傷しても動作することがありますので、常にピックアップの状態を知っておくことが必要です。

表-1 振動ピックアップの校正例

 次に、実際に校正した例を図-4, 5に示します。図-4はリオン(株)のPV90についての校正例です。このピックアップは重量1グラムの超小型であり、取り付けの共振周波数が50KHz位に設計されていますので、高い周波数の振動の計測、或いは軽量体の振動の計測に用いられます。図中には80Hzでの電荷感度を示すと共に(  )内には購入時のメーカ校正値を示しています。図-3に示しています。例で実線は正常なピックアップであることが分かります。一方、破線の例では高い周波数の領域で正常に動作していないことが分かります。80Hzでの電荷感度を見ますと、実線の場合には購入時に比べて1%以内の変化しか生じていませんが、破線の例では購入時に比べて7%程度感度が低下しています。しか し、この程度の変化から使用中に故障を発見することは難しいと思われますし、得られたデータを間違って解釈する危険性があります。次に、タイプが異なる振動ピックアップの校正例を示します。

図-4 振動ピックアップ(Rion/PV90)の校正例

 図-5はリオン(株)のPV87の校正例を示しています。この振動ピックアップは重量100グラムで2kHz以下の低い周波数の比較的に小さい振動の計測に用いられる高感度のものです。校正結果で実線のピックアップは正常であると判定されたものでありますが、破線で示しているピックアップは故障していると判定されたものです。周波数応答は両者共に500Hz以下の周波数では購入時の特性と一致していますが、故障と判定されたものは1kHz、および2kHzでの特性が著しく変化しています。また、感度についても25%程度変化しています。感度の25%の変化にもかかわらず、500Hz以下での周波数応答が正常の状態に近いために故障に気が付かないことがあります。

図-5 振動ピックアップ(Rion/PV87)の校正例

 図-4, 5に示しましたピックアップの故障の原因は圧電素子のひび、割れと思われますが外見からだけでは判断できませんし、注意して使用しないと故障に気が付かずに使用する危険性があります。

5. おわりに
 振動ピックアップは本来その特性が10年で1%程度しか変化しない安定なセンサーですが、使用中に損傷を受けることが考えられます。圧電型ピックアップは衝撃の影響を考慮して設計してあり、無理な使用をしない限りは簡単には故障するものではありませんが、使用頻度が高く重要なデータを得るために用いられる振動ピックアップほど定期的に校正しておくことが、信頼性のおけるデータを得るための第一歩と孝えられます。

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