2018/7
No.141
1. 巻頭言 2. ゾウと低周波音 3. 環境騒音観測システム NA-39シリーズ
   

     <技術報告>
 環境騒音観測システム NA-39シリーズ


リオン株式会社 音響振動計測器開発課  佐 藤  成

1.はじめに
 2017 年10 月に、環境騒音観測装置NA-39A、音到来方向識別装置AN-39D、SSR(Secondary Surveillance Radar)識別装置AN-39R、航空機騒音管理ソフトウェアAS-51から構成される環境騒音観測システムNA-39シリーズを発売した。本システムは当社がこれまで販売し ていたNA-37シリーズの後継機にあたるもので、計測器として最も重要だと捉えている「測定の信頼性」の向上を基本として、お客様の使い勝手をより良くするための 機能向上が随所に施された製品となっている(図1)。
 ここでは、NA-37 シリーズが抱えていた課題と共に、NA-39シリーズがどのような機能向上を図ったのかを紹介する。
図1 環境騒音観測システム 構成図

2.製品概要

2.1 環境騒音観測装置NA-39A
 環境騒音観測装置NA-39A(以下NA-39A)は、航空機騒音に加え、一般環境騒音、工場騒音など屋外で問題となる騒音を長期間連続して監視する、システムの核となる精密騒音計(JIS C 1509-1 クラス1 適合)である。 NA-37シリーズでは対応していなかった、1/3 オクターブ実時間分析機能を備えることで、音源の周波数領域における特徴も把握することが可能となった。また、測定データを付属の専用SDカードに保存することで、現場でのデータ回収時にもSDカードを差し替えるだけで現場からのデータ回収が可能となり、お客様の業務の効率化を図っている。さらに万が一SDカードが損傷した場合にも、内部のデータ専用メモリに測定データが保存され、次回SD カードを差し込んだ時に自動的に測定データが書き戻されるような仕組みとし、測定データの欠損を防ぐ構造とした。NA-37 ではオプションとなっていたGPS をNA-39 本体内部に内蔵すると共に、小型GPS アンテナも標準付属とすることで、移動測定時にもスムーズに時刻情報や位置情報を取得、記録することが出来る。
 また、オプションである音到来方向識別装置AN-39D やSSR識別装置AN-39Rを接続する場合には、ランドセルのようにNA-39Aの背面に固定用ネジ4本で増設するような仕組みとした。NA-37 シリーズでは決められたケース内の空きスペースにオプションを追加していく筺体構造となっていたため、オプションを使わない場合でもオプションのスペースが空のままとなるだけで本体の 外形は変わらなかった。NA-39シリーズでは必要なオプションに応じてサイズも小型化できるような構造とした。さらに内部の電源設計を大幅に見直し、電力ロスを最小限とすることでNA-39 システムとしてNA-37 に対して消費電力を約50%削減し、それにより放熱についても考慮する必要性がなくなったため、結果として体積についても1/3程度まで小型化し、さらに軽量化を図ることが出来た。それにより昨今の環境問題で課題とされている省エネルギー化はもちろんのこと、バックアップバッテリーの小型化や移動時の可搬性の向上など、物理的な意味でも大幅に取り扱いやすい製品となっている(図2)。
図2 環境騒音観測システム NA-39 シリーズ

2.2 音到来方向識別装置AN-39D
 音到来方向識別装置AN-39D(以下AN-39D)は、4つのマイクロホン(図3)を用いて仰角・方位角を測定し、航空機騒音や地上音の到来方向の検出を行う、NA-39Aのオプション装置である。音源の発生位置やその移動方向などを特定することができ、例えば航空機騒音監視用途においては発生した騒音が航空機によるもの(APUの音やタキシングも含む)か、あるいはそれ以外(自動車交通騒音、小鳥の鳴き声など)であるかを高精度で判別することが出来る。AN-39Dは従来販売していたAN-37 に比べ、DSP の高速化と信号処理アルゴリズムの機能向上を図った。また、プリアンプ部分についても見直すことにより、S/N(信号対ノイズ比)の向上やメンテナンス性についても改善をすることが出来た。その結果、特に仰角が低い位置での騒音源の識別性能が向上し、従来では識別が難しかったシチュエーションにおいても騒音源を正確に識別できるよう性能が向上された。
図3 音到来方向識別装置AN-39D 用マイクロホン

2.3 SSR 識別装置AN-39R
 SSR 識別装置AN-39R(以下AN-39R)は航空交通管制にして使用される二次レーダー情報を受信する装置である。二次レーダー情報を受信、解析することでスコーク(一時的な4ケタの識別番号)、気圧高度、アドレス(機体固有番号)を取得することができ、レーダー信号を発信している航空機の位置情報を検出することができる。そのため、音到来方向識別装置のみでは難しい、航空機が見え隠れするような複雑な地形の場所においても高い識別機能を有している。さらに従来製品AN-37Rでは受信した二次レーダー信号をリニアアンプ回路で増幅していたが、AN-39Rではログアンプ回路方式へと変更した。この変更により、AN-39R と航空機が遠く離れている場合でも確実にレーダー信号を増幅してから信号処理を行い、逆に極めて近接している場合でもレーダー信号が過大になりサチレーションを起こしてしまうことが少なくなるように設計を行った。結果としてAN-37Rよりもより広範囲の二次レーダー信号を正確に受信できるようになり、より航空機の航跡監視性能が向上した。

2.4 航空機騒音管理ソフトウェアAS-51
 航空機騒音管理ソフトウェアAS-51(以下AS-51)でも「測定の信頼性」の向上を図るために工夫がなされている。AS-51により表示された実際の測定結果の画面を図4に紹介する。AS-51はこのように複数のグラフ画面の組み合わせにより測定結果をわかり易く表示する。右上のグラフ(①)が騒音レベルの24 時間の長時間の推移を示しており、左のグラフ(②)がその中の一部、主に単発騒音イベント前後を拡大して表示するのに用いられる。(③)右下のレーダーチャートが単発騒音区間の音到来方向を示し、これはマイクロホン周辺を音源がどのように移動したかを直感的に示している。中央部のグラフ(④)は騒音源の仰角の推移と周波数スペクトルの時間履歴を示しており、ユーザーはこれらのグラフを見ることでその騒音源がどのように移動していたのかを確認することができる。これらのデータと同時に受信したスコーク信号も照らし合わせ、AS-51 はその日時の騒音源が航空機であるか、否かを判定することが可能である。
 また、実運用上の利便性を向上させるため、システムの自動監視中における停電、通信異常などがメールで通知されるようになっている。さらに図4の右側の画面(⑤)に示すように、WEBページでリアルタイムの騒音レベル(瞬時値、時間履歴)が表示されるようになっている。システムはどんどん高機能化、多機能化していくことで操作が複雑化してしまうことが多いが、本システムでは容易に運用が可能となるよう、工夫がなされている。
図4 航空機騒音管理ソフトウェア AS-51 の各画面

3.おわりに
 NA-39 シリーズは、ご紹介したように航空機騒音を測定されるお客様に対して「測定の信頼性」の向上と使い勝手の向上を主眼において開発を行った。また、NA-39AとAN-39Dを組み合わせることで、航空機騒音以外にも環境騒音の騒音源の識別にも使用できる可能性があると考えている。より多くのお客様にNA-39シリーズをご活用いただき、その利便性を感じて頂ければ本望である。

 

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