2012/1
No.115
1. 巻頭言 2. CANSMART & CINDE 2011 3. ストップウォッチ 4. ハンドヘルドパーティクルカウンタ KC-52 / KC-51
 

    <骨董品シリーズ その81>
 ストップウォッチ


理事長  山 下 充 康

 いくつもの旧いストップウォッチが残されている。音響研究にかかる実験はもとより、物理工学分野での実験では様々な場面で時間の計測が必要となる。時間を計測する用具として一般にはストップウォッチが使われた。
 昔は騒音レベルの測定は大変厄介な作業であった。騒音がモーターやコンプレッサーからの騒音のように時間的に変動の少ないものであれば騒音計の指針をそのまま読み取ることができるが、鉄道騒音のように間歇的に放射される騒音、道路交通騒音のように時間的に不規則に変動する騒音では騒音計の指針が一定値に留まらず、始終振れ続ける。こんなことから、騒音レベルの測定方法は計測しようとする騒音の種類によって異なっていたものである。
 時間的に変動する騒音については大変面倒な手続きが適用されていた。一般に「五秒五十回法」と呼ばれる方法が採用されていた。時間的に変動する騒音(例えば道路端で観測される道路交通騒音など)を計測する際に「時間的に等間隔で騒音レベルを読み取る」と明記されていた。時間間隔としてなぜか5秒が使われ、いつしか「五秒五十回法」と呼ばれるようになっていた。

図1 騒音レベル測定用箋の例
(リオン騒音測定用紙1)


 以前には日本工業規格(JIS)Z 8731:1957(昭和32年9月制定)「騒音レベルの測定方法」で騒音レベルの測定方法が規定されていた。等間隔で騒音計の指示値を読み取るために時計が不可欠だった。ここでストップウォッチの登場となる(二人が一組となって一人は時を測りながら5秒ごとに相棒の肩を叩いたので「肩たたき法」とも呼ばれた)。
 その当時は騒音計の一部にストップウォッチを置く部分が備え付けられていたものもあった。読み取られた50個の騒音レベルから累積度数を求めて上端値L5、下端値L95、中央値L50を表示することとなっていた。等価騒音レベルLeqの採用によって騒音レベルの測定方法はJISが改正されて、5秒毎の騒音レベルの読み取りは昔のこととなってしまったが、当時は時計と騒音計の目盛りの両方を観測しなければならなかったものである。とはいえ、騒音レベルの測定に慣れてくると時計がなくても5秒を自分なりに規定することができるようになって、ストップウォッチが要らなくなった。私は「ゾウサン・ゾウサン・オハナガナガイノネ!!」を5秒の目安として頭の中で繰り返し唄っていたものである。
 その当時の騒音レベル測定用箋の一例を図1に示した。50個の騒音レベルの読み取り値と累積度数算出用箋が組み合わされたものであった。
 残されているストップウォッチの概観と内部を図2,3(片方は文字盤の刻印からソビエト製であることが判る)に示した。機械式のアナログ時計で竜頭を廻してゼンマイを巻き上げると心地よい刻み音を聞かせてくれる。近年の1/100秒まで表示することのできるデジタル時計にはない、時間計測にロマンを感じさせられる機械式のアナログ時計である。
図2 音響科学博物館所蔵のストップウォッチ
(左 スイス製  右 ソビエト製)

図3 ストップウォッチの内部


 等価騒音レベルLeqは国際的にもISOで規定されている。等価騒音レベルは平たくいえば特定の時間帯における騒音レベルの時間平均値であるが、今日ではデジタル技術とエレクトロニクスの発達によって積分機能が騒音計に組み込まれたお陰でLeqを手軽に読み取ることができるようになった。
 平成11年(1999年)、環境基準の改正によって騒音の環境基準値も騒音レベルの中央値L50から等価騒音レベルLeqに変更された。等価騒音レベルの採用によって苦情や感覚的な喧しさなどと騒音レベル計測値との対応が向上したといわれている。
 ストップウォッチでの時間測定が不要になって、今では役割を終えたストップウォッチも音響科学博物館の一画に展示されることになってしまった。

 

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