2012/1
No.115
1. 巻頭言 2. CANSMART & CINDE 2011 3. ストップウォッチ 4. ハンドヘルドパーティクルカウンタ KC-52 / KC-51
 

    <会議報告>
 CANSMART & CINDE 2011           

圧電物性デバイス研究室   児 玉 秀 和

はじめに
 11月1日より4日まで、International Workshop on Smart Materials & Structures and NDT in Aerospaceと題された 国際会議がカナダ・モントリオールで開催された。 2011年会議はCanadian Smart Materials and Structures Group (CANSMART)、Canadian Institute for NDE (CINDE)およびFraunhofer IZFPで共催された。小林理研より児玉、深田栄一顧問が参加したので報告する。

会議概要
 CANSMARTはProf. George Akhras (Royal Military College of Canada (RMC))が中心になり結成された、センサー・アクチュエータデバイスと構造物への応用、構造物のヘルスモニタリングをターゲットとした研究会で、一方CINDEは非破壊検査における専門家を輩出し、材料、構造物および航空宇宙分野におけるNDT(Non-destructive Testing:非破壊試験)技術を共有することを目的としたカナダの研究機関である。また、Fraunhofer IZFPはApplied Microelectronics and Nanotechnologyをターゲットとしたドイツの研究機関である。このように本会議は材料、センサー、非破壊検査といった異なる分野の研究機関により開催された、特徴あるワークショップである。

モントリオールの街並み

深田洋子氏 (RMC, Canada)による口頭発表


 本会議のトピックスは、
1. Active and Smart Materials, Smart Composites, Attached or Embedded Sensors and Actuators.
2. Micro-Electro Mechanical Systems and Devices (MEMS).
3. Structural Vibration Suppression and Smart Damping Techniques.
4. Structural Health Monitoring.
5. NDT of Materials & Structures and NDT in Aerospace.
6. Industrial and Commercial Applications, Space, Aerospace, Automation, Medicine, Civil and Marine Eng.
の6項目が設けられた。主な参加国はカナダの他、ドイツ、米国、中国、日本で著者数は149名、論文数は58件だった。最も件数の多いトピックスはスマート材料とヘルスモニタリングで25件、続いて航空宇宙におけるNDTが13件、非破壊検査が10件だった。
 本会議の特徴は口頭発表を極めて重んじた会議だということで、ポスター発表はわずか3件、他55件は全て口頭発表だった。発表時間は1件当たり20分と十分に取られ、活発な議論が行われた。また、充実した企業展示も特徴で、全14ブースが設けられ、CINDEの他、OLYMPUS、GEなど非破壊検査デバイス会社が製品展示やデモンストレーションを行っていた。

機器展示会場

研究発表
 招待講演を除く口頭発表は、Smart Structures and Materialsに関連した発表とNDTに関する発表で2部屋に分かれ、パラレルセッション形式で行われた。招待講演は4件行われ、中でも興味深かった発表は“Inspiration, Adaptations, Technical Innovations and Design Similarities, Provided by Observations of Nature’s Creations and Evolutionary Development Processes”, B. M. Kulfan, (Boeing (Retired))で、世の中で役立たれている技術の多くは、例えばハニカムと蜂の巣や次世代車の形状と魚の形(流れ抵抗の少ない形状)の関係など、自然に生み出された物がヒントであり、身の回りには次世代技術のヒントになる物が多く存在しうるという発表だった。
 当研究所より2件の口頭発表を行った。1件目は“Electromechanical Properties and Acoustic Applications in High Sensitivity Porous Polypropylene Electrets”, H. Kodama, Y. Yasuno, T. Furukawa, and E. Fukadaと題して、圧電共鳴法による多孔性ポリマーエレクトレットの電気機械特性ならびに圧電性について紹介し、さらに音響応用として超音波式距離計と無指向性の超音波音源を紹介した。
 2件目は“Damping Control of a PZT Multilayer Vibration Using a Negative Impedance Circuit”, Y. Fukada, G. Akhras (RMC, Canada), H. Kodama, M. Date, and E. Fukadaと題し、PZT積層アクチュエータをダンパーとして用いて、そのダンピング特性を負性インピーダンス回路によって電気的にコントロールするという研究を発表した。従来、圧電素子に抵抗とインダクターといったパッシブ素子をつなげてダンピング特性をコントロールするという手法が用いられているが、本研究ではアンプを内蔵した、等価回路が負性インピーダンスとなる回路を結合して、そのインピーダンス特性を最適化すれば大きなダンピング制御効果が得られることを発表した。なお、本研究は当研究所とRMC研究員深田洋子氏(深田顧問のご令嬢)、Prof. Akhrasとの共同実験で、深田氏がカナダから来日し小林理研で実験並びに解析を行った。

RMC訪問
 Prof. Akhrasのご厚意により、会議最終日の翌日にオンタリオ州キングストンにあるRMCを訪問した。キングストンはモントリオールとトロントのおよそ中間、オンタリオ湖の東端に 置し、クイーンズ大学もある学生街である。今回はProf. Akhrasの運転で、モントリオールよりキングストンまで車でおよそ3時間かけて移動した。
 RMCの設立は1874年。この大学の特徴としては理学分野、工学分野が充実していることが挙げられる。理学分野では、化学、コンピュータ科学、物理学、数学、宇宙化学の5分野、工学では航空宇宙、化学および材料、環境、コンピュータ、電気、機械の6分野を対象としており、これらは本会議のトピックスと密接に関連していることが分かる。
 キャンパスはカナダの大学らしくとても広大で、その中にある建物の全てが低層階であることも広さを実感させる要因である。案内された研究棟は当然低層階でありながら床面積がとても広く、化学実験室から大型風洞実験室、さらには数mサイズの材料を試験するための大型実験室と多種多様な部屋が設けられていた。今回のRMC訪問を通じ、小林理研とRMCとのより密接な研究協力関係が構築されることが期待される。

左より深田洋子氏、Prof. G. Akhras、深田顧問

終わりに
 今回出席したCANSMART & CINDE 2011は、参加人数が100人程度と学術会議としては小規模であるにもかかわらず、材料物性、デバイス開発さらには実用研究まで幅広い分野をターゲットとしているため、研究の「異文化交流」を体感できた。このような会議が催された背景には、RMCならびにCANSMARTのバックグラウンドとしてサイエンス(理学)とエンジニアリング(工学)が融合した研究環境があるためと思われる。当研究所においても、これまで圧電材料と音響振動を融合した研究を培ってきた。本会議ではこのような小林理研の特色を活かし、多くの方々に私たちの研究に興味を抱いて貰うことができた。

−先頭へ戻る−