1984/9 No.6
1. 左右性について

2. 中国技術交流の記

3. ルーバーによる道路騒音対策 4. 震動ピックアップの絶対校正 5. 音響インテンシティ法による応用計測例 6. 聴力と年令
 
 振動ピックアップの絶対校正

騒音振動研究室 横 田 明 則

1、はじめに
 振動ピックアップの絶対校正の必要性、およびその現状については、小林理研ニュース1984/3、No.4で紹介されていますが、ここでは、小林理研とリオンが共同で研究開発したレーザ干渉法による絶対校正装置について説明します。
  レーザ干渉法による絶対校正の手法にはいくつかの方法がありますが、ISO/DIS 5347では3種類の方法が述べられており、当研究所とリオンでもISOの方法に従って校正ができる装置を作り上げることを目標として作業を進めました。この研究の中でISOの校正手法とは異なる方法の開発を行うこともできましたし、また、問題点の抽出も行うことができました。校正装置は、外からの振動ノイズを嫌います。レーザ干渉法による校正精度はこの外からの振動ノイズによって決定されると言っても良い程で、校正装置の除振方法をどのようにするかは大変重要な問題です。このために、中国では60数トンもの吊り基礎上に校正装置が設置されていると聞きました。またISO/DIS 5347では、校正装置を光学系と振動系に分離して、各々を共振振動数が2Hz以下になるようにして除振するべきだとしています。
  ISOの分離型構造についても、その根拠となる資料を見い出すことができませんでしたので、我々は一体型構造と分離型構造の校正装置について外からの振動ノイズの影響を極力小さくするような構造の検討からはじめました。以下には、校正精度と防振構造との関係について検討した結果と構成された校正装置の概略を紹介します。

2、干渉法による校正の原理
 レーザ光を用いた振動校正法の原理を図-1に示します。
図1 振動ピックアップ校正原理

光源から放射されたレーザ光は、ビームスプリッタによって2つに分けられ、1つは固定鏡に、もう1つは振動面に取付けられた鏡に到達し、そこで反射された2つの光()はビームスプリッタによって再び合成され、光検出器で2を検出することができます。分割されたレーザ光は各々次の式で表わすことができます。


  ここでλはレーザ光の波長であり、はそれぞれ、分割されたレーザ光の光路長です。また、は振動面の変位で、と表わされますが、ここで言う校正とはを精度良く求めることです。さらに検出器で検出されるレーザ光の強度は次式のように表わすことができます。
  レーザ干渉法による校正手法は、(1)式をもとにその性質を利用して行なわれますが、以下ISOに述べられている方法について説明します。

 干渉縞計数法
  干渉縞計数法(fring counting method)とは、(1)式で表わされる干渉強度が最大になる数を振動の一周期の間に数えてを求める方法であります。(1)式で干渉強度I が最大になる条件は


となります。光路差- は一定値なので、強度が最大になる条件は、のみに関係し、変化する毎に最大となります。振幅で動いている振動面は一周期の間には動くことになり、この間に含まれる最大値の数となりますから、このを計測することによって は、
  として振動面の振幅を求めることができます。
 
図2 干渉強度のフィルタ出力
 
 
表1 光干渉縞消失点の振幅と1KHzの加速度
 

 干渉縞消失法
  干渉縞消失法(zero-point method)とは、(1)式で表わされるレーザ光の干渉強度 を狭帯域フィルタに通して、そのフィルタ出力が0になる点を探すことによってを求める方法であります。(1)式はフーリエ級数に展開することができて、ベッセル関数 、(n=0、1、2…)によって次のように表わすことができます。


  ここで、たとえば(3)式を変位の角振動数と同じ中心振動数を持つ狭帯域フィルタに通すとその出力は次のように表わすことができます。

(4)式で(-)は定数であることから、 は第一次のベッセル関数 に従って変化し、振幅の関数となり、加振振幅を変化させて =0となるようにするとの値を求めることができます。図-2に が変化する様子を示し、表-1に、=0となる点の振幅の値を示します。(3)式はの中心振動数を持つ帯域フィルタに通しますとその出力は によって表わされますから(4)式は一般的には

 として表わすことができます。

 比例法
  この方法は原理的には上記の干渉縞消失法と同じですが、2台のフィルタを用いて、その出力比を求めて振幅を求める方法です。(3)式を、と3の中心振動数を持つフィルタに通しその比を求めると、となり、この比に対応するの値はベッセル関数の計算により正確に求めることができます。干渉縞消失法との相違点は、消失法の場合にはベッセル関数の値が0になる点でだけしか校正できないのに対して、比例法では任意の振幅で校正できる点にあります。ISO/DIS 5347では干渉縞消失法ができないか、実際的でない場合には比例法による校正法が使用できるとされていますが、この表現には疑問が残るところです。
  レーザ干渉法による振動ピックアップの絶対校正手法の原理についてISO/DIS 5347に従って述べましたが、各校正手法が適用される振動数範囲は下に示すようになっており、どれか一つの方法で全振動数帯域をカバーできるというものではありません。
   
図3 較正手法と振動数範囲
3、校正手法と除振方法の関係
  レーザ干渉法による振動ピックアップの絶対校正の原理については前章で述べましたが、この原理は理想的な環境の下でのことであり、実際には外からの振動ノイズが校正精度に及ぼす影響が極力小さくなるような校正装置の組立てを検討する必要があります。外からの振動ノイズを排除するということは校正装置を除振台上に組み立てることを意味しますが、この除振方法を具体的にどのような方法で行うかということが問題になります。そこで校正装置全体を一つの除振台上に組み上げた場合(一体型構造)と校正装置を光学系、振動系に分離して除振した場合(分離型構造)について検討を行いました。
  一体型構造では、光学系と振動系を同一の除振台上に設置するために、外からの振動ノイズの影響についてはほとんど無視することができます。この場合には、振動系から光学系への振動漏れが、そのまま誤差となって計測されます。この誤差を小さくするためには、除振台重量を振動系の加振部重量に対して十分に大きくする必要があります。一方、分離型構造では、校正手法によって振動ノイズの影響が異なってきます。各系は外からの振動ノイズによって除振台の固有振動数(ISO/DIS 5347では2Hz以下)で動いているとしますと、この低い振動数成分のノイズの影響を検討することが測定精度の検討につながります。干渉縞計数法では、校正の最低振動数20Hzで、ノイズ振幅1μ、加振振幅2μで、0.1%程度の誤差が生じますが、実際には計数誤差を小さくするため数十ミクロンの変位振幅で加振しますので誤差はほとんど考えなくても良い程度のものになります。一方、干渉縞消失法では、計数法とは異って何%の誤差が生じるかというのではなく、校正が可能か不可能かという結果になり、校正可能な領域では、誤差は考える必要がありません。また、両手法とも校正振動数が高くなる程振動ノイズの影響が小さくなります。干渉縞消失法でi)校正可能な条件(加振振動数200Hz、ノイズ振動数2Hz、ノイズ振幅2.5μ)とii)不可能な条件(加振振動数200Hz、ノイズ振動数2Hz、ノイズ振幅5μ)についてシミュレーションを行った結果を図-4に示します。図から明らかなようにi)の場合には表-1に示した加振数幅に対応する点で0点の検出が可能であることが分かりますが、ii)の場合にはもはや校正ができないことを示しています。
  これに反して比例法では、分離型構造をとると、1次および3次のフィルタ出力の比がベッセル関数のみでは規定されずに、ノイズの影響を他の2つの方法よりも大きく受け、この方法では一体型構造が適していることを式の上から確かめました。
   
図4 干渉縞消失法のシミュレーション例

4、校正装置の概要
  当研究所とリオン鰍ナは、20Hzから2kHzまでの振動数範囲での校正はできなければいけないという考えから、分離型による校正装置を構成しました。下に装置の写真を示します。なお、除振台の固有振動数は光学系で1.7Hz振動系で2.5Hzに設計されており、除振台重量は各々700kg、400kgとなっております。また、除振台間の相対変位は1μ以下となっております。

5、おわりに
  現在、ISO/TC 108の要請により基準ピックアップ校正のためのRound Robin Testが米国基準局(NBS)のSerbyne氏を幹事役として行なわれていますが、日本からは小林理研-リオン鰍フ共同班と、工業技術院計量研究所の2つ機関がこのテストに参加して作業を進めており、第一回目のテストを8月上旬に済ませたところです。
  なお、当装置を用いて校正を行う具体的な方法、校正精度等につきましては次の機会に紹介したいと思っております。

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