圧電ポリマー物性研究

1.圧電・強誘電ポリマーの開発・研究

1-1. 小林理研とポリフッ化ビニリデン(PVDF)フィルム
 
PVDFは圧電性を示すことが初めて見いだされた合成高分子です。この性質は1969年に当研究所の河合平司博士により発見されました1)。その後の研究により、焦電性や高電場による分極の反転が確認され、今日では代表的な強誘電性高分子として知られています2,3)。これらの性質と高分子材料に特有な成形性、柔軟性、軽量などの性質を組み合わせたユニークなデバイスが数多く開発されています。医用超音波センサ、ハイドロホンはその一例としてあげられます4,5)。本研究室はPVDFとVDF 系共重合体の極限物性の研究に挑み、新たな応用の可能性を探求しています。新しい有機圧電材料の開発研究にも取り組んでいます。

 

1-2. 高分子の電気物性
 
高分子の多くは誘電体であり、電場を与えると分極が生じます。PVDFのように高電場を印加する(ポーリング処理)と大きな分極を生じ、電場を除いても保持する「強誘電性」を発現します。ポーリング処理を施されたPVDFは歪や熱により電気応答を示します。これらは圧電性や焦電性と言われています。一部の高分子では電場を与えると電流を生じ、導電性を示します。誘電性は貯蔵現象、圧電性・焦電性はエネルギー変換、導電性は輸送現象として位置付けられます。当研究所はこれらの機構を広帯域・非線形誘電スペクトロスコピーにより研究しています。


1-3. サンプル作成・測定・解析まで
 
当研究所ではフィルムサンプルの両面に電極を設け、誘電率や圧電率を測定します。電極は真空蒸着器やスパッタを用い、低抵抗化や高密着性といった高精度測定に必要な高信頼性電極の形成に努めます。また必要に応じてキャスト法やスピンコーターにより成膜も行います。得られたサンプルについて圧電性はもちろんのこと、力学・電気・熱・構造といった方面から測定・解析を行います。


測定の手順  
(1)フィルム切断、厚み計測、※加熱プレス対応可  (4)温度可変セルを用いた温度依存性測定
(2)電極形成   1) 液体窒素タイプ(-150℃〜)
  1) 真空蒸着
  2) ペルチェタイプ(空冷 -20℃〜、水冷 -65℃〜)
  2) イオンスパッタ (5)各種解析
  3) スクリーン印刷   1) 圧電共鳴
(3)測 定   2) 誘電緩和
  1) 誘電率・導電率(広帯域mHz - GHz、非線形)   3) 導電率
  2) 圧電率(面内伸縮法、共鳴法)  
  3) 弾性率(面内伸縮法)  
  4) 焦電率  
  5) 強誘電分極反転(DEヒステリシス等)  

 

 

1-4. 電気物性測定・圧電デバイス試作のための電極形成
 
圧電率や誘電率といった電気物性や圧電デバイスを試作するためには、シート状の高分子を適当な寸法に切断(図1-4-1)し、両面に電極を形成する必要があります。切断されたサンプルはマイクロメータで厚みを計測し(図1-4-2)、電極形成のプロセスへと進みます。
 当研究所では、電極形成の手法として真空蒸着(図1-4-3)、イオンスパッタ(図1-4-4)、スクリーン印刷が可能です。電極材として、真空蒸着では金やアルミニウム、イオンスパッタでは金、スクリーン印刷では銀インクやカーボンインクが用いられます。電極寸法は数mmから20cmまで可能です(図1-4-5, 6)。また、基材についてもフィルムだけではなく、ゴムや特殊処理を施したシート等への電極形成も可能です。必要に応じて加熱プレス機(図1-4-7)を行うことも出来ます。

 

図1-4-1

図1-4-2

図1-4-3

図1-4-4

図1-4-5

図1-4-6

図1-4-7


1-5. 温度制御セル
 
誘電率や圧電率の温度依存性測定は分子運動に関する情報を得るうえで重要な手法です。また、圧電デバイスの温度特性の予測や、根本的な原因を明らかにすることも出来ます。温度依存性測定を行う際はサンプルを温度制御セルに封入します。 本研究所では、液体窒素とヒーターを組み合わせたセルの他、ペルチェ素子を用いたセルを用います。液体窒素タイプのセル(図1-5-1)は測定温度範囲が-150℃〜+150℃で、多くの高分子で分子運動がほぼ凍結された温度より融点直下までの測定が可能です。真空に引くことで、結露の影響を防ぎます。  ペルチェタイプのセルは空冷タイプ(図1-5-2)と水冷タイプ(図1-5-3)があります。空冷タイプは-20℃から測定することが出来、焦電測定や環境試験に準ずる評価に便利です。水冷タイプは-65℃から測定することが出来ます。いずれもUSBでコンピュータ制御を行っております。

 

図1-5-1

図1-5-2

図1-5-3


 

参考文献
1) Heiji Kawai, “The Piezoelectricity of Poly (vinylidene Fluoride), Jpn. J. Appl. Phys. , 8 (1969), 975.
2) Takeo Furukawa, “Piezoelectricity and Pyroelectricity in Polymers” IEEE Transactions on Electrical Insulation, 24 (1989), 375.
3) 高分子機能材料シリーズ5 電子機能材料 第2章誘電材料, 高分子学会編, 共立出版.
4) 超音波テクノ 1997年 10月号 特集「高分子圧電材料の性質と応用1」.
5) 超音波テクノ 1997年 11月号 特集「高分子圧電材料の性質と応用2」.

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